伊藤野枝(いとうのえ)は、女性の自立を訴える、婦人解放運動家として活躍したことで有名です。
彼女が自身の活動の中心として参加していたのが、平塚らいてう等によって結成された女性文学集団「青鞜社」です。
今回は、そんな伊藤野枝と青鞜社について、平塚らいてうとの関係も交えながら解説していきたいと思います。
伊藤野枝が青鞜社に関わったきっかけについて
まずは、伊藤野枝が青鞜社と関わるようになったきっかけについて解説します。
そもそも青踏社は、1911年に、平塚らいてうや神近市子らによって結成されました。
「女の手による女の文芸誌」として、機関誌『青鞜』を発行するなど、女性の権利を精力的に訴える活動を行いました。
そして、伊藤野枝は福岡の貧しい家庭で育ちましたが、東京で勉強したいという強い意志を持っていました。
15歳の時、東京の叔父を頼って上京し、高等女学校へ進学します。
そこで親しい関係になった教師であり、また後の夫になる辻潤から、雑誌『青鞜』のことを教えられました。
興味をもった伊藤野枝は、平塚らいてうによって採用され、『青鞜』での執筆活動を開始することになりました。
今でも有名な、平塚らいてうの「原始、女性は実に太陽であつた」といった言葉や、伊藤野枝の「吹けよ、あれよ、風よ、あらしよ」といった言葉は、この『青鞜』の中で記されたものです。
※参照:青踏社と新婦人協会の違いは?平塚らいてうと市川房枝の関係も解説
伊藤野枝が平塚らいてうから青鞜社を受け継いだ経緯について
平塚らいてうが代表を務めていた青鞜社ですが、1915年、伊藤野枝が引き継ぐこととなります。
伊藤野枝が青鞜社を受け継いだ経緯についてみていきましょう。
青鞜社結成から3年後、平塚らいてうは、美術家を志望する奥村博史と同棲生活をはじめます。
そして1915年には長女・曙生(あけみ)を出産します。
当時の青踏社は、その全てを平塚らいてうが取りまとめている状況でした。
らいてうにとって、自身の生活と経営・編集の両立は非常に負担が大きく、心身ともに追い詰められていました。
そのため、いったん青鞜社から離れることを決意し、その間の実務を伊藤野枝に依頼したのでした。
らいてうの要請に対し、野枝は以下のように答えます。
全部委せるならやるが、忙しい時だけのピンチヒッターは断る
らいてうはこれを承諾。こういった経緯で、その後の青鞜社は伊藤野枝に任されることになったのです。
野枝が編集長になってからの青踏社は「文芸誌」としての側面を脱し、かわりに貞操や胎児問題などを取り上げる「評論誌」としての性格が強くなっていきます。
青鞜社が解散した経緯について
さいごに、青鞜社が解散した経緯について解説します。
伊藤野枝が受け継いだ青鞜社ですが、その後わずか1年ほどで解散してしまいます。
この原因は大きく2つあります。
1つは、伊藤野枝が家族、そして青踏社の仕事を捨てて、大杉栄との交際をスタートした為です。
当時、伊藤野枝は夫の辻潤との間に2人の男の子を産んでいましたが、次第に無政府主義思想に傾倒。やがて同じアナーキストである大杉栄と文通を初めます。やがて野枝は仕事を放り出してしまい、そのため1916年の2月号を最後に、『青踏』は無期休刊してしまうのです。
4月、野枝は夫と息子たちを捨て大杉栄の元に走ります。
※参照:大杉栄に妻はいたのか。恋愛対象となった3人の女性について
やがて野枝は大杉との間に5人の子供を産みますが、こうした彼女を世間はもちろん、周りの活動家も批判。野枝を「悪魔」とまで呼ぶ人もいたそうです。しかし野枝はこれを逆手に取って長女を「魔子」と名付けたとされ、世間の評判を気にする素振りを見せませんでした。
もう1つは、『青踏」6月号に原田皐月の小説「獄中の女より男に」が掲載された為です。
野枝に放り出された後の『青踏」は6月号が出たようですが、この号に掲載された「獄中の女より男に」が問題視されました。この小説は当時タブー視されていた胎児問題を扱っており、そのため『青踏」は発禁処分を受けてしまいました。
発禁処分はやがて解除されますが、野枝の後に『青鞜』の編集長となる人物は現れず、青踏社も事実上解散となってしまいました。
まとめ
今回は、伊藤野枝と青鞜社との関わりについて、また、平塚らいてうとの関係について解説しました。
まとめると、以下のようになります。
・伊藤野枝は、青鞜社に参加し、女性の自由を求めて執筆活動を行った。
・伊藤野枝は、心身ともに疲労していた平塚らいてうから、青鞜社を受け継ぐこととなった。
・大杉栄との関係や原田皐月の発禁処分により、青鞜社は解散となった。
伊藤野枝と言えば、結婚制度や貞操観念、廃娼運動を批判し、人口胎児には賛成するなど、今日でも論争となるテーマを世間に投げかけた伊藤野枝。その生涯は、今でも一部の女性から熱狂的な支持を集めている事でも知られています。